体験記01

元気が出るタンタンメンとは

外で料理をおいしく食べるということは、意外と難しいのではないだろうか。もちろん味もそうなのだが、雰囲気や料理人との相性も大切だ。 また例え自分が美味しいと思っても、一緒についてきてくれた仲間が美味しいと思うかは分からなかったりする。味覚というのは、僕がやっているデザインと同じでとても個人的なものだったりするからだ。 それから、大変申し訳ないが「これは絶品だから」と言われて食ったモノで旨かった試しは三回ぐらいしかないように思う。 そんなわけで、大抵の店よりは家の料理が自分にとっては美味しかったりすると思うのだが…。 食通の相棒が最高の担々麺を食わしてやる、というので冬のある日、「福龍」を訪れることになった。正直、僕は中華がそれほど好きではないし辛いモノも好物ということもない、嫌いでもないのだが、どうせお金払うなら、フレンチやイタリアンのほうがおしゃれな感じがするし家で食べられないしと思ってしまう。そんなわけで、期待せずに出かけた。 おそらく初めて日本橋や宗右衛門町をうろうろし、ウオーと思いながら(謎)、めざす福龍はかなり意外な場所に奥まってちょこんとあった。10席ほどあるカウンターに座って当然のように、名物の担々麺を頼む相棒。 食べる前から横では相棒がウンチクをいろいろいってくれるのだが、これも申し訳ないが僕はあんまり嬉しくない。だってそんなに言われると、旨いと言うしかなくなるではないか。 そんななかで出てきたモノは

かなり赤い。これは辛そうだと気合いをいれて一口食べてみると、「あれっ」そんなに辛くない。やや拍子抜けしながらスープを啜ると、食べたことのない不思議な味がする。ゴマの風味のせいだろうか、連日の仕事づかれで食欲のなかったはずの胃袋に結構するすると入っていく。 体が欲する味とでもいうのだろうか。 激辛を予測していた僕は、一瞬味を見失ってしまったのだが、強いでもなく弱いでもなくて、なんとなく食べ進めてしまう味なのであった。味の秘密を探ろうとしても、どうにも私のデータベースにない味なので、もう一口もう一口と食べていくうちに見事スープまで飲み干してしまった。

思うにラーメンというよりは、スープに近いのではないだろうか。あくまでスープが主役の担々麺である。 すべて食べた後で遅かったのだが、目の前のメニューをみると、「担々麺のおいしい食べ方」と書いてある。なになに、 1.胡麻の香りを愉しむ 2.麺とスープを混ぜて一口 3.麺を食べながら、スープの変化を感じてください。 4.カシューナッツとミンチが甘みとコクを出します。 5.飲むほどに味がまろやかになります。 茶道じゃないんだから、そんな食べ方しねえよ、と思いながらもスープの味が変化していくということを読んで納得。道理で味が理解できないわけだ。刻々と変わっていってるんだから。 どうよ。と聞いてくる相棒に 「確かに旨い」と答える私。 「担々麺てこんなに旨かったんですね」 「うちのは特別だよ。ヨソのと食べ比べてみてよ。」 「どうしてスープの味が変わっていくんですか?」 店主の尹東福(イン・トウフク)さんに尋ねると。←また名前が格好いいではないか、東の福ですよ。日出ずる国の福。 ニヤリと嬉しそうな顔をして「ラー油の辛味と酢の酸味とナッツとミンチの甘みのバランスが食べていくうちに変わっていくからよ。だから最後の一滴まで飽きずに食べられる」と私の空になった器を眺めながらおっしゃる。 納得できたよなできないような。まあいっか旨かったのだから。 「食欲なかったんですけどね、最近仕事でラーメン食べすぎて飽きてたもんで」 「うちのソバは、食欲がでるんだよ。体にいいもんしか使ってないし、酢だろゴマだろ唐辛子だろ。常連さんの中には風邪ひくと食べにくる人もいるよ。」 ほーお。わからんでもない。 もう少し食べたくなった私達はこのあと、黒酢ラーメン(こちらもかなりオススメ)を二人で分けて食べることにし、腹いっぱいになったところで 「最後にスープにコレをいれてみて、見た目よくないけど、だまされたと思って」 と差し出された白ごはんを、気が進まぬままに食べてみると

「旨い」 鍋のあとの雑炊とでもいうか、どっちかていうと麺よりも、ごはんの方が旨い。思わずお代わりを要求すると、 「ほらね、食欲でるでしょ。」 確かに、尹さんのおっしゃる通りでした。


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